PET検査は生体内分子に類似した放射性医薬品を用いることで生体内の様々な機能的所見を得ることができます。その中でも18F-fl uorodeoxyglucose(以下、FDG)を用いたPET検査は診療に極めて有用であることが数々の臨床研究により確認され、保険適用の範囲を広げてきました。
FDGはグルコースの側鎖である水酸基の一つを陽電子放出核種である18Fに置き換えた放射性医薬品(グルコース類似物質)です。細胞内にグルコースと同じように取り込まれますが、代謝が途中で進まなくなるように設計されており細胞内に蓄積されます。結果として投与から60分以降に撮像しても組織の糖代謝を反映する画像が得られ、悪性腫瘍などの糖代謝が活発な病変を陽性描出することができます。当センターでは地下のラボラトリーに薬剤技術員が常駐しており、このFDGをはじめとした様々な放射性医薬品を毎日自家合成しています。
てんかん |
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難治性部分てんかんで外科切除が必要とされる患者に使用する。 |
心疾患 |
虚血性心疾患による心不全患者における心筋組織のバイアビリティ診断(他の検査で判断のつかない場合に限る。)又は心サルコイドーシスにおける炎症部位の診断が必要とされる患者に使用する。 |
悪性腫瘍(早期胃癌を除き、悪性リンパ腫を含む。) |
他の検査、画像診断により病期診断、転移・再発の診断が確定できない患者に使用する。 |
血管炎 |
高安動脈炎等の大型血脈炎において、他の検査で病変の局在又は活動性の判断のつかない患者に使用する。 |
当センターで行われている検査の大部分がFDG-PET/CTによる悪性腫瘍の診断です。悪性腫瘍は正常組織に比し糖代謝が亢進しています。画像上に現れる悪性腫瘍へのFDG集積は由来組織の性質や分化度/ グレード、細胞密度に左右されますが、多くの病変で明瞭な集積が確認されます。特に転移性病変では原発巣に比し相対的にグレードの高い成分が多く検出能が高いです。また、画像上FDG集積が乏しいものもあるため、最近では形態所見も同時に得られるPET/CT検査が一般的です。
PET検査が診療に使用されるようになって間もない頃はPET単独検査が一般的でした。しかしながら、前述のごとく悪性腫瘍へのFDG集積の程度は様々となります。PET検査から得られる代謝情報のみでは悪性腫瘍の診断能が十分でないことが分かるようになるとともに、代謝情報と形態情報を同時に得られるPET/CT装置が登場、診断能もPET単独検査をはるかに上回ることが報告されました。今では悪性腫瘍に対する検査は全例でPET/CT検査になっています。
悪性腫瘍のFDG-PET/CT検査は、特に①病期診断、②治療効果判定、③再発診断をする際に有用です。CTなど他のモダリティと比べて一度に全身を網羅でき、形だけでは見えにくい病変が腫瘍の活動性によって確認できるため、予期せぬ転移巣や再発巣を発見しやすくなります。治療前精査としての病期診断においては多くの症例において病期が変更され、再発診断においては数ある画像診断モダリティの中で最高レベルの診断能を誇ります。腫瘍活性を定量することによる治療効果判定は現在悪性リンパ腫のみが保険適用となっていますが、他の悪性腫瘍においても多くの治験が進行中であり、今後適用範囲が拡大することが期待されます。
FDG-PET/CT検査は悪性腫瘍の早期発見に有効であり、がん健診にも応用されています。しかしながら、FDG-PET/CT検査のみでは全ての悪性腫瘍を見つけることはできません。悪性腫瘍の部位や性質によっては見つけることが難しいものがあるため、当センターではMRI、上部消化管内視鏡、超音波検査、生化学検査などのオプション検査を用意し、より高い診断結果が得られる体制を整えています。現在センターでは年間1,500~2,000件ほどのFDG-PET/CTを用いた健康診断を実施しており、これは日本の他のPET施設と比較してもかなり多い部類です。
虚血性心疾患における心筋組織のバイアビリティ診断は、他のモダリティでも信頼のおける判定が出せるようになり、需要は非常に限定的です。最近では心臓サルコイドーシスに対するFDG-PET/CT検査の件数が増加しています。
サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽腫性疾患で、その病理像は類上皮細胞肉芽腫を特徴とします。サルコイドーシスの心臓への浸潤は致死性不整脈の合併により予後を悪化させる可能性があります。そのため早期にサルコイドーシスの心臓病変の有無や炎症活性を診断し、治療を開始することが重要となります。
マクロファージやリンパ球をはじめとする炎症細胞は、悪性腫瘍と同様にグルコース代謝が活発であり、FDGは炎症活性を有するサルコイドーシス病変に集積します。心臓MRIなど他のモダリティで診断しにくい場合でも、心臓サルコイドーシスの活動性炎症の有無を診断することができ治療方針を決定する上で有効です。また治療による炎症活性の変化も判定可能です。ただし、心筋へのFDGの生理的集積は個人差が大きく、生理的集積が残存していると活動性炎症の有無が評価困難になりやすくなります。したがって、心筋への生理的集積を抑制する前処置が必要となります。前処置としては、1)前日から当日にかけての糖質制限食、2)前日からの糖質制限食および当日の絶食が一般的となります。
各種受容体イメージング、低酸素イメージングなど特異的な情報を画像化するための様々な放射性医薬品の開発が進んでいます。平成24 年には心筋評価のために13N-NH3を用いたアンモニア心筋血流PETによる虚血性心疾患の診断が保険収載されました。
アンモニアは血流に応じて心筋細胞に分布した後、グルタミンに変換され心筋細胞内にとどまります。この集積機序により局所心筋血流を評価することができます。
心筋血流の評価には心筋血流SPECTが広く普及していますが、一般的には心筋血流量の評価は相対的なものにとどまります。これに対して、アンモニア心筋血流PETは時間・空間分解能やコントラスト分解能が相対的に高く、心筋血流量を定量的に計測することが可能です。これにより最高レベルの心筋虚血診断能を誇ります。